カイタックプロジェクト室長
宮田 智夫

のめり込む

期待と大きな不安

負けず嫌いの胸の奥、勝負の場を突き進むことは恐怖であると語った。
幅広い期待が集まっている。
異国の地で言語も文化も乗り超えて成し遂げようと強い思いがあった。

2019年12月に香港に入り、元請のヒッピンと契約に向けた事前準備、打ち合わせを開始。
2020年1月22日、カイタックスポーツパーク事前着工書(LOI)に高柳常務がサイン。
2か月に渡る交渉、事前着工書(LOI)を手に帰ってきた。

時を同じくして、中国・武漢で発生した新型コロナウイルス感染症、忽ち世界中を飲み込んでいったのだ。
プロジェクトの始めからこれほど大きな試練がのしかかろうと予測できただろうか。
無論、現地での打ち合わせなどは出来ず、契約書へのサインも郵送でのやり取りとなった。

経験したことのない規模、難易度に加え新型コロナウイルス、前例がなかった。
波乱含みのスタート。見えぬ先、文字通り一心不乱に突き進むしかなかった。

第二の故郷

遡ること25年、宮田は海を渡り香港にいた。
海外での初仕事。その最初の地が香港沙田(シャティン)競馬場であった。

2004年11月に竣工を迎えた香港沙田競馬場の設計から携わり
現場所長として、奔走する毎日だった。
これまで故障もなく、期待通りに稼働。
宮田は、海外のオーナーを満足させた。

それは、自分の開花に至ったと思える。
言わば第二の故郷、特別な場所なのだ。

宮田にあなたのアナザースカイはどこですかと聞いてみた。
無論、第二の故郷は香港であると笑顔で答えてくれた。

感謝の積み重ね

香港沙田競馬場で横河システム建築とタッグを組んだヒッピン(ゼネコン)は絶対の信頼を寄せている。
また一緒に仕事がしたいと思っているのだ。
これは、宮田が積み重ねた評価も一役買っていることは間違いない。

カイタックスポーツパークは、そうした信頼からすそ野を広げた結果となった。
毎日、笑ったり、激論を交わしたり。
信頼というのは一朝一夕にならず。起伏に満ちたこれまでの歩みを共にして分かり合えるのだ。

香港沙田競馬場の建設時、休日もなく、一人で黙々と根詰めて作業しなくてはならない日も多かった。
ある日、仲間が自分のホテルの部屋まで差し入れを持ってきてくれた。
ささやかな喜びが、ピンと張り詰めた糸をほぐした。
言葉こそなかったが、同じ想いをもって助けに来てくれたことが身に染みた。
また、宮田のファイトが湧いてくる。
仲間同士の感謝する気持ちの積み重ねた成果だとも言えるのだ。

海外でのプロジェクト遂行の難しさ

海外プロジェクトのキャリアを持つ宮田は、
このプロジェクトを進めることの難しさを知っていた。

私の決めたことだ!すべての責任は私が持つ。
という風潮が海外では極めて少ない。

何かを決定することは非常に怖いことである。
それが、責任を持つ行為となってしまうから。

何かを決定する場合、必ず承諾を得なければならない。
その為、メールの送信先は数十人になり、意見する人、確認する人、関わりが薄い人など様々だ。
皆が静観し、満場一致ですぐに物事が決定はしない。

しかし、現場は進まなければならない。時は無常に過ぎていくばかりだ。
いち早く、決定者を見つけ出し話し合うかが肝になる。
その部分がネックとなり苦労しているという。

自分自身も決めなければならないし、また、施主も決めなければ進まない。
海外で起こりえることが大きく立ちはだかっている。

「叱られようと叩かれようと、勇気を持ってシュートを打つしかないのだ」
これまでくぐり抜けてきた数多くの修羅場 
その経験による説得力が宮田の言葉に宿る。

技術が進歩しても最後に決断するのは人だ、自分が正しいと思ったことを発言し実行せよ。
宮田は、世界の建築家を相手に懸命に戦っている。

毎日感動がある

重責を担う男は道半ば、工程も、大きな事故などなく進めている。
大事にしたいのは、現場は人のぶつかり合いであり、優しさも含めてぶつかり合いだと宮田は言う。
各業者が自分の想いを伝えてくる。
言い方は悪いが「言いたい放題」「やりたい放題」だ。
これは、良い意味だと宮田は解釈する。皆が自分にできるベストを考えて「ぶつかり合う」。

建築というものは、一人ではできない。故に「ぶつかり合い」ながら良いものが出来上がる。
カイタックスポーツパークには、これに言語という壁が立ちはだかる。

しかし、これを乗り越え、節目、節目で現地スタッフと笑顔で握手が出来る。
感動することは毎日のようにあるのだ。

最後に想うこと

宮田は、数十年も前からこの舞台を作り上げた常務を恩師と呼ぶ。
これほどの「苦労」、「責任」、「未来」を担いで先頭を走ってきた。
背中を追って、恩師の舵を取る手を見続けてきた。

数年前に「今度は感動を与える側になれ」と言われたことを昨日のように思い出す。

その仕事と向き合う様は、夢中であり、また満足感に溢れていた。
夢中になるからこそ、時を忘れて没頭できる。
気が付けば誰よりも考え、考え抜いている。

「努力は、夢中には勝てない」
宮田の心にそう叩き込まれた。

自らも世代交代を考える時期をいつかは迎える。
気鋭の若手に同じ想いを味わってもらうことが重要なミッションだと言う。

今回も宮田は、望んで海を渡る。
勝負はまだまだこれからだ。

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